御誕生法要の祈りから新たな行動

投稿日:2023年07月15日

宗祖弘法大師御誕生千二百五十年の正当年の中心となる、六月十五日の御誕生会・青葉まつりが各総大本山や各派寺院で盛大に営まれた。各派、各地域の歴史や伝統、信仰に応じた形で営まれた慶讃法要や記念行事は、宗祖の教えの多彩さを表し、全てのいのちを包摂して祝福する曼荼羅世界の具体相を現出したものであろう。我々は真言末徒として、この五十年に一度の勝縁の結願後、捧げられた多様で重層的な祈りを、宗祖がそうされた如く、「蒼生の福を増す」ための具体的な行動に移していかねばならない。
各派全ての御誕生法会に共通するキーワードは、幼年期の宗祖に御両親や周囲の人々が付けた「貴物(とうともの)」という呼び名である。生まれ来るいのちと未来を担う子どもたちに対して、これ以上の慈愛に満ちた尊称はないであろう。幼きいのちは全て「貴物」なのであり、子どもは等しく幸せになる権利を持っている。それが御誕生説話の現代へのメッセージである。
コロナ禍で改めて知った疫病の恐怖、ミャンマーやウクライナをはじめとする世界各地での戦火がもたらした悲しみと怒り、地球規模で広がる経済格差と困窮者の増加。今、世界はいのちを危機に晒し、その尊厳を脅かす事象に次から次へと見舞われている。いのちを「貴物」として慈しむ、御誕生説話の教えを世界に広める時期は、現代をおいて他にないのではないか。
性的少数者や障がい者、高齢者や外国人、多様な人々が認め合い、助け合いながら平和に暮らせる社会。全ての人の多様な人権が守られる世界。あらゆるいのちを「貴物」として尊重し、お互いを尊敬し合う曼荼羅世界を、御誕生法要の祈りに根ざした小さな行動から現実社会に作っていきたい。