戦時資料に平和の声を聴く

投稿日:2023年03月15日

過日、昭和十四年に設立され、既に解散している福岡市内の高野山大師教会支部から数十点の戦時資料が発見された。金属類供出のために福岡県に提出した「㊙寺院教会金属類保有状況報告書」をはじめ、出征兵士の慰問活動など、どれも戦時下の寺院に課せられた重い歴史を伝える貴重な記録である。
戦時資料を丹念に読み込んでいると、行間から平和を切望する声が漏れ聞こえてくるような気持ちになることがしばしばある。表面的には出征兵士を華々しく見送りながらも、寺院には生還を願う祈りの跡が戦時資料として遺されたりしている。こうした数々の戦時資料から「現代の情勢はどうか。戦争に向う足音は聞こえてこないか」と、厳加問われている思いがする。
高野山真言宗社会人権局では人権常任委員会内の平和部会の新たな活動として、先行する浄土宗や浄土真宗本願寺派の取り組みも参考にしながら、宗内寺院に残されている戦時資料を宗派として収集する方針を本宗各派の中で初めて打ち出した。具体的な収集方法は今後、策定されることになっている。
戦争体験談や戦時資料をアーカイブ化し、人権・平和啓発の恒久的資料として活用するのが目的だが、その契機となったのは昨年十二月の広島平和記念資料館での「第二回平和研修会」で共有された「戦争体験者の高齢化の中で、直接話を聞けるのは今が最後ではないか」との強い危機感であった。
最大の人権侵害は戦争であり、人権は平和な世でこそ守られる。だが平和は天与のものではなく、一人一人の不断の努力でしか維持することはできない。「済世利人」を実践し「蒼生の福を増す」活動は全て平和に直結する。今、宗祖弘法大師のみ教えを体して、戦時資料に学ぶことが求められている。