高大教育学科新設への期待と課題

投稿日:2020年11月15日

経営改革を進めている高野山大学の文学部教育学科の設置が文部科学省から、去る十月二十三日認可された。同日から正式に学生募集を開始した。
高野山学園の添田理事長は記者会見で、弘法大師が千二百年前に史上初の庶民教育機関として開設した「綜藝種智院」の理念を踏まえ、「本当の人間力を養い、自分に自信をもって教壇に立てるような教育を目的とした体験重視型のカリキュラムを用意している」と発表した。通常の講義に加え、地域の様々な団体と教育連携をし、農業体験や馬術など多くの現場体験を通じての学びを充実させているのが最大の特長である。その目的は現場での問題解決能力を身につけ「失敗を恐れない」教員を育てることにあるという。これは『綜藝種智院式并に序』の「『大日経』を引用しての、初めて伝教の阿闍梨になるには、まず衆藝を兼ね学ぶべき」という一節に相通じるものがある。
教育には場所が重要である。今回は、より学生募集がしやすい河内長野市で弘法大師の教えを建学の理念とする大阪千代田短期大学の敷地と施設を借りて新キャンパスとする。こうしたケースは初めてと見られる。しかしこれは他の先行する教育系大学と競合するエリアに進出したことを意味する。
受験生にとって独創的なカリキュラムが魅力的だと映るような広報や、宗門子弟に僧侶資格取得可能であることも強調する必要があるだろう。
この教育学科の成功のもう一つの鍵は、本体である高野山キャンパスの文学部密教学科(入学定員三十名)の改革である。高野山信仰圏の歴史がある河内長野で展開される教育学科との相乗効果で、新たな高野山学が誕生することを期待し、宗祖の教育理念を身につけた学生たちが育つことを望みたい。