奥之院服装啓発から真の多文化共生へ

投稿日:2026年05月25日

世界遺産登録から二十年以上が経過し、文字通り世界有数の聖地となった高野山には、様々な国や地域から大勢の参拝者が年間を通して訪れている。その反面、国内外を問わず聖地に相応しくない軽装での参拝者が目立つようになり、中世には高野浄土とも称された森厳な信仰環境が毀損されかねない事態を招きつつある。これに危機感を抱いた総本山金剛峯寺では、四月から弘法大師御廟がある奥之院で参拝者の服装の規制と指導を開始した。礼服 (正装、準・略正装)、遍路装束を基準とし、タンクトップ、ミニスカート、ショートパンツ等の露出の多い服装に注意、指導を行うとしている。
その意図するところは、肌の露出が多いカジュアルな服装を正装に替える作法を通して、結界がなされた聖地に入るために自己の心を整えてほしいということにある。いわば今回の服装指導・規制は人智を超えた偉大な存在を拝するための礼節であり、世界のあらゆる聖地に共通するマナーである。
多様な国の人々や民族が、ある国の聖地に敬意を尽くして参拝する。これこそが信仰の多文化共生であり、金剛峯寺はそれを奥之院から国内外に発信しようとしているのである。互いの国の聖地を尊び合うところに争いはない。
弘法大師のみ教えは特定の国や民族に限ちれるものではなく、その曼荼羅思想は全てのいのちを包摂する。高野浄土の救いを表象する奥之院御廟への参道は、世界に向けて開かれている。世界が軍事力の誇示で不安定化している今こそ、奥之院参拝を入り口とした多文化共生による真の平和構築が求められるのではないか。八年後の宗祖御入定一千二百年御遠忌に向け、奥之院から発信される服装啓発による参拝作法が深く定着することに期待したい。