高野山真言宗では春季宗会に於いて、各寺院・教会の収入額を査定する財務調査に基づいて負担指数を決定し宗費を賦課する現行制度を廃止し、各住職が自ら決めた金額を毎年賦課する「自己申告制」に変える規程改正案を承認した。これにより、宗費は賦課金であると同時に、限りなく志納型に近い性質になったと思われる。
宗費制度改革の最大の趣旨は、これまで原則五年毎に実施され、直近では令和五年になされた財務調査では、地域間の宗費負担の不公平感を是正することができない点にある。宗務所に各寺院の収入額を自己申告してもらい、分析・査定した上で、各々の宗費額を定める方法は、費やされる宗務所職員の多大な労力や経費に比すると割に合わないものであったことも報告された。
今回、高野宗が宗費を志納型に近い自己申告制の賦課金に変えた根源には、 「祖廟を信仰の源泉とする」という、大師信仰を宣揚した宗憲第三条がある。祖廟を拝する奥之院燈龍堂では、千年前に高野山の復興と護持を誓って祈親上人が灯した祈親燈が今も輝きを放っている。これに貧女お照が黒髪をお金に換えて灯火を献じた「貧女の一燈」の伝承が加えられるようになった。長者が金に糸目をつけずに献じた萬燈が一風のもとに消え去ってしまったが、貧女の一燈はびくともしなかったという。この説話が意図するところは、心のこもった志納こそが重要であるというメッセージであり、祈親燈の伝承と宗祖の萬燈会の願文と重ねる時、新制度は「信心のこもった一燈の志納を集めた萬燈で高野山を護持する」という原点回帰に思えてくる。
新制度は、寺院、教会の宗団への帰属意識を高めるものであると期待する。