法燈継承と伝統の重み

投稿日:2024年07月05日

去る五月三十日に醍醐寺座主の壁瀬宥雅大僧生の晋山式、六月十五日に長谷寺化主の川俣海淳大僧正の入山式が営まれた。教王護国寺は次期長者に決まった橋本尚信師の入山式を、七月二十一日に厳修すると発表した。
古代からの観音信仰の聖地・長谷寺で開花した学山豊山の教風、理源大師を祖とする真言密教の本山であり顕教(三論宗)や浄土教、修験道の行学も伝えてきた醍醐寺の法流、鎮護国家の祈りの根本道場と定められ宗祖弘法大師請来の仏舎利や密教法具が納められている教王護国寺。化主、座主、長者と各山主貌下の称号の違いは、それぞれの本山で受け継がれてきた法燈の特色を物語り、その継承の儀式には各山が今日まで紡いできた伝統の重さが凝縮されている。こうした歴史ある本山を帰依所とする意義を考える時、伝統教団と称される本宗各派の所属寺院の針路も定まるのではないか。
仏法は師から弟子へと継承されることで次世代に渡されていく。各本山の法燈継承式はその事実を荘厳な儀式の中で追体験するものであり、受け継がれた法は各所属寺院にも伝わっていることを再確認する場でもある。我々伝統宗団の強みの源泉は、ここにあるのではないか。
寺離れや信仰心の希薄化など、寺院を取り巻く負の側面が指摘されて久しい。だが、本当にそうなのだろうか。幾多の歴史的苦難を乗り越えて先徳方が現代まで灯し続けてきた法燈の中に、こうした難題を解く鏑があるのではないか。法燈継承式が示す伝統の重みに触れていると、受け継いだ伝統を体して、それぞれの時代の仏法を創造してきた幾多の先徳の姿を観る思いがすると共に、新たな時代の仏法紹隆を担う勇気を賜ったような高揚感を覚えた。