京都・清水寺で発表される「今年の漢字」。令和四年を象徴する一字に「戦」が選ばれた。多くの人がロシアのウクライナへの軍事侵攻を憂い応募したことは間違いない。戦争を身近に感じた一年だったことに不安を覚えた。
令和五年は宗祖御誕生千二百五十年・真言宗立教開宗千二百年の両勝縁を迎える。宗祖の幼少時の呼び名である「貴物(とうともの)」は真魚少年が単に優れていたからというだけの意味ではなく、後に密教の救いをもたらす存在となる宗祖を通して、全てのいのちに向けられた尊称ではないか。即ち生きとし生けるもの全てが「貴物」なのである。そして立教開宗に当り「真言
宗」と名乗られたのは「真言」という仏と一体となる真実の言葉が、全ての時代の荒波に対峙する上で必要不可欠だとお考えになったからではないか。
今、著しく軍拡が進む東アジアは、世界で最も軍事的緊張が高まっている地域だと懸念されている。政府も増税による防衛費の増額を打ち出した。こうした緊迫した情勢の渦中で、真言末徒として何をなせばよいのだろうか。
若き宗祖は新たな救いの法を求めて入唐し、師である恵果和尚から「蒼生の福を増せ」との遺命を受けて帰国する。この「蒼生の福」とは「全てのいのちの幸い」のことであり、突き詰めれば「平和」そのものである。軍事的緊張が高まる情勢下で「蒼生の福を増す」とは、国内外のいのちを分け隔てなく「貴物」と尊び、連帯による平和を呼びかける「真言=真実の言葉」で世界と語り合うことではないか。平和活動の文脈で「真言宗」を定義するなら「真言宗とは真実の言葉(真言)で平和を語り継いでいく仏法」としたい。令和五年末の「今年の漢字」が「戦」とは逆の「和」になることを切に願う。