宗祖弘法大師御生誕千二百五十年、真言宗立教開宗千二百年の大法会が愈々来年に迫ってきた。今、この時に何を祈るべきか。
世界のコロナ禍の終息はいつになるのか。ロシア軍による隣国ウクライナへの軍事侵攻は、力による現状変更への野心を持つ為政者に独善的な思想的根拠を与えはしないか。地球温暖化は加速度的に進んでいる。人類が前世紀に克服したかに思われた疫病の世界的蔓延と世界戦争、かつてない規模の自然環境破壊という人間存在の存続を脅かす命の問題に我々は直面せざるを得ない状況の中で、宗祖を慶讃する両大法会を迎えようとしているのである。
宗祖が讃岐の地に生を享け、真言密教という救いの大法をもって一宗を樹立するに至ったのは、日本一国のみのためではない。また人間のみを救うためでもない。宇宙に遍満する全ての命の安寧を願ってお生まれになり、立教開宗されたのである。現代に照らし、我々はその意味をどう胸に刻むのか。
今の世界を顧みるに再び分断の論理が幅をきかせ、十九、二十世紀の帝国主義を超える新たな弱肉強食の論理が拡大しようとしている。そのエネルギー源は不信感であり、この不信感の連鎖を止められるのは祈りの連帯である。
仏法が説く真理である縁起の法を知り、全てを包摂する真言密教の曼荼羅思想を根幹とする我々は、世界の様々な宗教者にも呼びかけ、宗教は違えども祈りで繋がる世界を祈りで創出しなければならない。それこそが、宗祖の御生誕と立教開宗の意義を現代に敷街することになると信じるからである。
何よりも先ず世界各地で続いている戦争・紛争地の即時終戦と平和的復興を至心に祈り、世界を蝕む不信感を消除することに共に力を尽くしたい。