ロシアによるウクライナへの武力侵攻以降、日本仏教各宗派でも非難声明を出し、平和への祈りと共に救援募金等の人道支援を行っている。その背景に釈尊の不殺生戒や宗祖の曼荼羅思想が据えられている。今、それらを結集して、平和を護るための戦争否定の教学を打ち立てるべきではないか。
ロシアによる武力侵攻により、危機感を持った北欧ニカ国がNATO加盟を表明。我が国周辺でも中国や北朝鮮の脅威が以前にも増して叫ばれ、敵基地攻撃や核保有という言葉さえ耳にする事態を迎えている。日々の報道を通じ軍拡と軍事同盟による対立と分断の時代へと逆行していく恐怖を覚える。
我が国は戦後七十七年を迎えようとしている。戦後の仏教界は戦時中の教団のあり方への深い反省に立ち強く平和を希求し、様々な平和活動をしてきた。教団だけでなく、各寺院でも取り組んできた戦没者慰霊塔の建立や慰霊祭、戦争遺跡の巡拝、戦争で供出した梵鐘の再鋳造などは、あの悲惨な戦争を絶対に繰り返さないという先徳の誓いの具体的な表れである。今号で取り上げた熊本正法寺の合同慰霊祭も、戦争を忌避する誓いの尊い一例である。
戦争の世紀と呼ばれる二十世紀。しかし同時に、我が国では戦争を経験した人々が懸命に平和な社会を築こうとした時代でもあった。その偉大な遺産と努力を受け継ぎ、二十一世紀を生きる我々は、再び軍靴の音が世界を席巻しないよう、戦争否定の二十一世紀の教学を打ち立てねばならない。
「今、弘法大師がおわせば」どのような平和を護るための戦争否定の教学を打ち出されたか。改めて宗祖の聖教に深く学び、「蒼生の福を増す」ために平和構築の現場で世界を対話でつなぐ教学を構築していかねばならない。