絆を分断するコロナに祈りのワクチンを

投稿日:2020年05月05日

新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態の中で、観光地の寺社では異例の拝観停止が相次ぎ、全国各地の寺院では参拝や法事等の自粛、諸行事を中止せざる得ない事態となっている。再開の時期は見通せない。
政府によって緊急事態宣言が発令され、檀信徒が寺院に気軽に行くこともできなくなり、住職も檀家宅での法務も出来かねる状況となった。人々が集い、相互の交流を深めることを前提として成り立ってきた寺院の営みが、感染拡大の中で危機に瀕している。未曾有の事態の中で、今、何をなすべきか。
ウイルス感染の恐怖がエスカレートして、不安と苦しみの中で戦っている感染者や最前線で命をかけて治療に当たっている医療従事者への差別や中傷が横行している。過剰な不安や恐れから生じた差別、偏見というウイルスの「心の感染」が、人々の絆を分断しながら蔓延し始めているのではないか。それは決して許されることではない。 分断を防ぐ智慧が必要である。
社会の分断が懸念される一方で、在宅のまま人々の心を祈りで繫ぐ取り組みが始められている。中国観音、四国三十三観音、九州西国の三観音霊場で組織される百八観音霊場会では、各札所が梵鐘を撞き、その音に合わせて檀信徒が自宅などで祈っている。大覚寺派では般若心経秘鍵上表文の嵯峨天皇の写経による病疫退散の霊験を信仰する檀信徒がそれぞれの自宅で写経を行っている。「在宅の祈り」を共有することで、離れていても一体感を感じることができる。本山、末寺、霊場会、檀信徒が一体となって在宅の祈りを集め、それがさらに社会に広がれば、「心の感染」による人々の絆の分断を防ぐ祈りのワクチンとなるのではないか。祈りには社会を繫ぐ大きな力がある。(令和2年5月5日号)